環境中の微生物の研究

環境中の微生物の研究

微生物のうち人類が把握しているものは全体の2割程度だと言われています。様々な環境中に生息する未知の微生物の中には、人類にとって有用な生物や、逆に危険な生物が存在する可能性があります。そのような様々な環境中に生息する微生物を調査研究することは環境問題の解決や資源回収、病原微生物による危険の回避などに関わる今後の重要なテーマであると考えられます。

 

1 環境中から微生物を単離培養する

環境中に生息する微生物を調べる場合、培養方法がすでに知られている微生物では特定の生物を選択的に培養する培地がつかわれます。
例えば、川の水の大腸菌群検査を行う場合は大腸菌群検査用の培地が使われます。
未知の微生物を含む環境中の微生物を純粋培養するには、一般的に生息環境に近い成分の培地を使って培養して増えた微生物を分離して培養して分析する方法が使われています。一般的に、環境中から微生物を単離して純粋培養とするには一般的に以下のような方法で行います。

  1. 環境中からサンプル(水、泥、など)を採る。
  2. サンプルが泥のような半固形物の場合や微生物がかたまっている場合は物理的に分散させる。
  3. サンプルを段階的に希釈する(例えば10倍、100倍、、、)。
  4. 希釈したサンプルをそれぞれ一定量取り培養する。微生物を培養する培地は、培養に必要な栄養を寒天で固めた平板培地がつかわれることが多いです。
    平板培地の上で増えた微生物は平板培地の上でコロニー(微生物の塊)を形成します。 充分に希釈されている場合は、平板培地上のコロニーの元は一つの微生物から細胞分裂で増えたものと考えられます。
  5. 充分に希釈されている培地で増えた微生物をそれぞれ取り、再び希釈と培養(例えば、平板培地の場合、薄く塗り直して培養)を繰り返す。
  6. 一つの微生物から増えた純粋培養になっていることを確認する。微生物の種類と純粋培養になっていることを確認する方法はそれぞれの微生物によって異なります。近年では遺伝子を抽出・分離・増幅してDNA塩基配列を調べる方法が普及しています。
図2-1:平板寒天培地

2 分子生物学的手法

様々な環境中に生息している微生物には抽出・培養が困難なものが多くいますが、
直接の観察が困難な微生物でも分子生物学的手法などを用いた間接的な手段によってある程度の情報が得られます。
近年では微生物の検出に遺伝子を利用した手法が採用されることが多くなりました。
特に形態的特徴の乏しい細菌では、16SrDNAと呼ばれる遺伝子を用いて細菌の存在を検出する手法が各分野で広く用いられるようになってきました。
2-1 DNA(RNA)抽出と遺伝子系統解析

同じ働きをする遺伝子でもDNA塩基配列には変異があります。違う生物同士でも、生物共通で同じ働きをする遺伝子のDNAやRNAの塩基配列を比較することによって、生物の進化的な近縁関係を推定することができると言われています。
この遺伝子レベルでの進化的な近縁関係を求めることを遺伝子系統解析、それを図にしたものを遺伝子系統樹と呼びます。
細菌の場合は、16SrDNAと呼ばれる遺伝子は同じ種類の細菌ではDNAの変異が少ないので種類を判別するのにも使われることもあります。
自然環境中に生息する細菌から分子生物的手法によってDNAのみを抽出、DNA塩基配列の違いによって分離して、それぞれのDNAの遺伝子系統を解析することによってどのような細菌が生息しているかを調査することも行われています。参考:環境バイオテクノロジー学会(リンク) (総説)土壌からのDNA抽出法
2-2 細菌をDNAで染める(Fluorescence In Situ Hybridization)

短いDNAに蛍光物質を結合させた「プローブ」を細菌内のRNAと結合させることによって細菌を検出する方法もあります。この方法はFISH(Fluorescence In Situ Hybridization)と呼ばれています。
例えば、泥の中から抽出した未知の細菌のDNAからプローブを設計してFISH法を適用すると、そのDNAをもつ細菌がどのような形で、どの程度生息しているかがわかります。
顕微鏡写真2-1:FISH法で特定の細菌を検出

写真の赤色が目的の細菌、緑色はその他の細菌

顕微鏡写真2-2:培養できないポリリン酸蓄積菌をFISH法で検出

左の赤色がFISH法の結果、右は同じプレパラートでポリリン酸を染色処理(黄色の部分)。左右の結果からこの細菌がポリリン酸を含んでいることがわかる

<<参考文献>>

2.Polyphasic approaches to the identification of predominant polyphosphate-accumulating organisms in a laboratory-scale anaerobic/aerobic activated sludge system /
Onda,S. et al. /
The Journal of General and Applied Microbiology, Vol. 48 (2002) No. 1 pp.43-54

3.Isolation and characterization of a Gram-positive polyphosphate-accumulating bacterium /
Onda,S. and Takii,S. /
The Journal of General and Applied Microbiology, Vol. 48 (2002) No. 3 pp.125-133

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